アパート住まいだったからこそ得られたこと

私の見え方

私は先天性白内障のため、左眼の視力は指数弁30センチ(30センチ離れたところの指の本数が判る程度)、右眼は0です。そのため、色は判りますが、視野が狭いため、急に前に物が現れてびっくりすることもありますし、目の前にあるものも知らずにいることもあります。

人の輪郭は分かっても、顔を見分けることはできません。私にとって美人だと思う女性は、声がきれいな方です。電話のときと普段話すとき、知人に話すときとよそ行きとでお声を使い分けられてしまうと、もうパニックです!

私の幼少時代

私は幼いころアパート住まいでした。同じアパートには、一つ年下の男の子をはじめ、入れ換わりはありましたがいつも同年代の子がいましたので、よく遊んでもらいました。

私は3才くらいから、おもちゃのピアノで正確にメロディを弾いていたそうです。そして、5才のとき、両親が足踏みではなく電気式のオルガンを買ってくれ、6才になったときにはエレクトーンを買って習わせてくれました。うれしかった!私が練習する音を聞きつけて、同じアパートに住んでいる友達以外の子も遊びにくるようになりました。そして、外へもよく一緒に遊びに行きました。

そのころは、車の通行量も少なく、三輪車や自転車に乗っていても平気でした。今となってはとても無謀なことですが。

当時は、役所に聞きに行かなければ福祉制度について知ることはできませんでした。決して両親が無関心だったとは思わないのですが、盲学校に入学するまでは交通運賃の割引制度や身体障害者手帳のこと、白杖の存在も知らなかったようです。

柿薗さんが「視力を全く失っている彼が、廊下を挟んだ2つのボランティアルーム、しかも机やイスが並べられている部屋の往復を、杖もつかずにしかも普通のスピードで歩いている。」と疑問を投げかけて下さっていますが、白杖の使い方だけでなく存在すら知らなかった私には、白杖なしで歩くことが自然に身についたのでしょう。今も、馴れた所は白杖なしで歩きます。知らない所に行くときには鞄の中から白杖を出しますが。

生まれてから盲学校に入学するまでは友達がいなくて、盲学校に入ってからも晴眼者の友達はいない。大人になっても仕事上晴眼者と接することはあっても、お年寄りになったら盲老人ホームに入って・・・・・という方もいらっしゃるようです。晴眼者との接し方が私にとってはアパート住まいが幸いして、自然にできたのかもしれません。もちろん、持っているお菓子を全部取られたり、知らない所に置いてきぼりを食ったなんてこともありましたが、それはそれでとても懐かしい思い出です。私が幼いころはまだ盲学校に幼稚部はありませんでした。いじめられたこともありましたが、それでも友達が幼稚園から帰ってくるのが待ち遠しかったのを覚えています。私だけがいじめのターゲットではなく、他の友達と一緒にいじめるほうに回ったこともありましたし。

今思えば、両親が私のことをあまり干渉せず、周囲の友達と自由奔放に遊ばせてくれ、同じアパートの住人も、温かく見守っていて下さったのだと思います。感謝しています。

勘がいいのではなく感覚を磨いています

よく「目が不自由な人は勘がいいですね」と言われます。でも、勘だけで歩いていたら、勘だけで鍼灸の仕事をしていたら大変です。

歩いていて靴の音が響くようになれば、広い所に出たなと、風を強く感じるようになれば、あ、道があるんだなと感じます。パチンコ屋さんの音、喫茶店のコーヒーの香りなどで、今自分がどこにいるのか判ります。

盲学校中学部で吹奏楽クラブに入ってトランペットを吹くようになるまで、私には絶対音感がありました。ラの音はあくまでも440Hzであり、441Hzでも許せませんでした。しかし、管楽器はその日の気温や湿度によって音が変わります。冬など、楽器の内部が温まってくると、段々音の高さが変わってきます。それに馴れるまで、随分苦労しました。

晴眼者の友達と、お金がないので、バスで一時間くらいかかる所まで往復したこともあります。しかし、全く苦痛ではありませんでした。歩くことによって、自宅からの距離感や方向も判るからです。今でも私は歩くことが大好きです。

視覚障害者は映画やテレビを見るの?

小学生のころは、よく友達と野球を見に行きました。殆どの場合はラジオ持参でしたが、放送がないときも行きました。友達が私のためだけに横で実況放送してくれるのはたまりませんでした。そして、歓声の輪の中にいるだけでも幸せです。

最近は、映画を観に行っても、字幕を全部読んでもらうのは大変だろうなあという遠慮があって、原作を読んだ後邦画しか見に行きませんが、映画館の臨場感はテレビのそれとは比べものにならないのは晴眼者と同じだと思います。先日ハリーポッターを見に行ったときは、一緒に行った人は原作を読んでいませんでした。それで、逆に、映画でカットされていたところを説明できたりして、持ちつ持たれつの関係になれてとても満悦でした。

ニュース速報など、字幕しか出ないものについても副音声で放送してくれるといいのですが、お金もかかりなかなか難しいんでしょうね。


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